平成27年7月8日に従前の「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」を引き継いだ形で、新たに「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」が公布され、令和元年5月17日(法律第4号)及び令和元年6月1日(法律第37号)に建築物省エネ法の改正法が公布されました。
それに伴い戸建住宅においても令和3年4月1日から説明義務制度が導入され、省エネ基準の適否や省エネ基準に適合しない場合は、省エネ性能確保のための措置を建築士から建築主へ書面にて説明することが義務化されその書面を保存図書として残すように義務化されます。
そのためには、計画する住宅建物の省エネ性能が基準値に適合しているのか把握するうえで、省エネ基準に基ずく評価が必要となります。
戸建住宅の省エネ対応の経緯 |
項目 | 2019.5 | 2019.11 | 2020.4 | 2020.10 | 2021.4 |
■省エネルギー基準(建築物省エネ法) | |
地域区分の見直し | | 公布・施行(経過措置) | 施行 |
8地域の外皮の見直し | | 公布 | 施行 |
気候風土適応住宅に対する省エネ基準の合理化 | | 公布 | 施行 |
■説明義務制度 | 公布 | 施行 |
戸建住宅の簡易な評価方法(モデル住宅法)の追加 | | 公布 | 公開(試行版) | 公開(正式版) |
小規模建築物の簡易な評価方法の追加 | | 公布 | 公開(試行版) | 公開(正式版) |
■住宅トップランナー制度 | 公布 | 施行 |
建売戸建住宅の基準 | (現行制度にて基準あり) |
注文戸建住宅・賃貸アパートの基準 | | 公布・施行 |
あなたの計画中の建物の省エネ性能(断熱性能)は、どの位の性能がありますか?
また、省エネの評価はどの評価方法で評価されていますか?
建築物省エネ法の省エネルギー基準の評価は、「外皮性能」と「一次エネルギー消費性能」の2つについて行い、評価方法には大きく分けて「標準計算ルート」、「簡易計算ルート」、「仕様ルート」の3つのルートがあります。
「@標準計算ルート」では、外皮面積を求める細かな計算にて精度の高い省エネルギー基準の評価が可能ですが、作業量が多くなるために外皮面積を算出せずに固定値を採用して算出する「A簡易計算ルート」が設けられています。
また、その中でも更に簡単に評価対応が行なえるように「Bモデル住宅法」が設けられています。
また、従前の省エネ法にて対応していた考え方が、建築物省エネ法にも引き継がれ、各部位ごとに断熱材や設置する設備の仕様にて判定する「C仕様ルート」が残されています。
評価方法 | @標準計算ルート | A簡易計算ルート | B簡易計算ルート 【モデル住宅法】 | C仕様ルート |
特徴 | 外皮面積を計算する方法 | A外皮面積を計算しない方法 | 計算シートを使用する方法 | 仕様を照合する方法 告示第266号参照 |
基準の指標 | 外皮性能基準 | 外皮平均熱貫流率UA
冷房期の 平均日射熱取得率ηAC | 外皮平均熱貫流率UA
冷房期の 平均日射熱取得率ηAC | 外皮平均熱貫流率UA
冷房期の 平均日射熱取得率ηAC | 一般部位の断熱性能
開口部の断熱性能と 日射遮蔽対策 |
一次エネルギー消費基準 | 一次エネルギー 消費量 | 一次エネルギー 消費量 | 一次エネルギー 消費量 | 設備の仕様 |
評価方法 | 外皮 性能 基準 | 面積 | 部位の面積を 計算する | 部位の面積を 計算しない | 部位の面積を 計算しない | 部位の面積を 計算しない | 部位の面積を 計算する |
断熱性能 | 部位毎の熱性能値 求める | 部位毎の熱性能値 求める | 断熱材と開口部の 性能値をカタログから 選択する | 外皮の断熱性能と開口部 の日射遮蔽対策が合致 していること |
計算 | 計算プログラムや エクセル等で計算する | 簡単な式に代入して 計算する | 簡易計算シートで 計算する | 計算しない |
一次エネルギー消費量基準 | 専用Webプログラムで 一次エネルギー消費量を 計算する(床面積の計算が必要) | 専用Webプログラムで 一次エネルギー消費量を 計算する(床面積の計算が必要) | 設置する設備を選択し 簡易計算シートで 計算する | 設備仕様・効率が 合致していることを 確認する |
建築物省エネ法の評価方法により、適用可能な制度が異なってきます。また、共同住宅の場合には、住戸評価と住棟評価(全住戸平均)の2つがあります。
制度 | 戸建住宅の評価方法 | 共同住宅の評価方法 |
標準計算ルート | 簡易計算ルート | 仕様ルート | 標準計算ルート | 簡易計算ルート | 仕様ルート |
外皮面積を計算しない方法 | モデル住宅法 | フロア入力法 |
住戸評価 | 住戸評価 | 住棟評価 |
外皮性能 | 建築物省エネ法 | 規制措置 | 適合義務制度 | △ | △ | △ | △ | △ | △ | △ | △ |
届出義務制度 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
説明義務制度 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
住宅トップランナー制度 | 〇 | 〇 | − | − | 〇 | 〇 | − | − |
誘導措置 | 性能向上計画認定制度 | 〇 | 〇 | − | − | 〇 | 〇 | − | − |
省エネ性能に係る表示制度 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
エコまち法 | 低炭素建築物(住宅)認定制度 | 〇 | 〇 | − | − | 〇 | − | − | − |
品確法 | 住宅性能表示制度 | 〇 | 〇 | − | − | 〇 | − | − | − |
一次エネルギー消費性能 | 建築物省エネ法 | 規制措置 | 適合義務制度 | △ | △ | △ | △ | △ | △ |
届出義務制度 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
説明義務制度 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
住宅トップランナー制度 | 〇 | − | − | 〇 | − | − |
誘導措置 | 性能向上計画認定制度 | 〇 | − | − | 〇 | − | − |
省エネ性能に係る表示制度 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
エコまち法 | 低炭素建築物(住宅)認定制度 | 〇 | − | − | 〇 | − | − |
品確法 | 住宅性能表示制度 | 〇 | − | 〇4 | 〇 | − | 〇4 |
一次エネルギー消費性能の評価ツール | Webプログラム | 簡易計算シート | − | Webプログラム | 簡易計算シート | − |
- 〇は評価可能、〇4は等級4のみ評価可能、△は複合建築物の場合に評価可能を示しています。
- ※モデル住宅法では等級を取得できないため、長期優良住宅認定制度には使用できません。
- 共同住宅の一次エネルギー消費量の算出にあたっては、住宅部分の設計一次エネルギー消費量、基準一次エネルギー消費量の算出において、共用部分を評価しない方法が可能。
- エコまち法とは、「都市の低炭素化の促進に関する法律」のことです。
- 品確法とは、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」のことです。
1)外皮性能計算
評価対象住宅の部位ごとに計算した外皮面積や長さ、性能値、係数等を用いて外皮性能を求める方法です。簡易計算ルートに比べ、正確な外皮性能を算出することができます。「外皮平均熱貫流率UA 」、「冷房期の平均日射熱取得率η AC 」、「暖房期の平均日射熱取得率η AH 」は、電卓等でも計算できますが、一般的には計算プログラムやエクセルなどの計算そふとを用います。当該住宅の住宅全体の断熱水準を数値で知ることができます。
2)一次エネルギー消費量計算
評価対象住宅の一次エネルギー消費量を建築研究所がインターネット上で公開している専用のWebプログラム「エネルギー消費性能計算プログラム(住宅版)」を用いて評価します。当該住宅の住宅全体の一次エネルギー消費量を数値で知ることができます。
仕様ルートと異なり、設備仕様が限定されておらず当該住宅の熱的性能と設置する設備の性能を入力して計算することができるので、仕様ルートに比べ選択肢の幅が広がります。
https://www.kenken.go.jp/becc/index.html
1)外皮性能計算
外皮面積を計算せずに、各部位(屋根、天井、外壁、開口部、床、基礎等)の性能値だけを求め簡易な式に代入し計算することで、「外皮平均熱貫流率UA 」、「冷房期の平均日射熱取得率η AC 」、「暖房期の平均日射熱取得率η AH 」を求める方法です。標準計算ルートよりも簡単に計算ができますが、外皮性能は低く算出されます。電卓等で簡単に計算できます。当該住宅の住宅全体の外皮性能を数値で知ることができます。
2)一次エネルギー消費量計算
標準計算ルートと同じく、当該住宅の一次エネルギー消費量を建築研究所がインターネット上で公開している専用のWebプログラム「エネルギー消費性能計算プログラム(住宅版)」を用いて評価します。当該住宅の住宅全体の性能水準を数値で知ることができます。
https://www.kenken.go.jp/becc/index.html
説明義務制度の創設に伴い、これまでよりも簡易に省エネ基準の適否を計算できる方法が新たに追加されました。手計算でできるルートで、他の計算ルートに比べて簡易に評価できますが、安全側の評価結果に(性能が低く)なるため、適合するためには、より高性能な仕様が求められます。
1)外皮性能計算
地域区分(1〜8地域)、構造(木造、RC造、S造)、断熱工法(床断熱、基礎断熱)等に応じて複数の計算シートがあります。該当する計算シートを選択し、手順に則って各建材メーカーのカタログ等に掲載されている熱貫流率などの値を転記し、四則演算することで、「外皮平均熱貫流率UA 」、「冷房期の平均日射熱取得率η AC 」、「暖房期の平均日射熱取得率η AH 」を算出でき、外皮基準の適否を確認することができます。
2)一次エネルギー消費量計算
地域区分(1〜8地域)、暖房方式(連続運転、間歇運転)等に応じて複数の計算シートがあります。該当する計算シートを選択し手順に則って各設備の種類を選択し、そのポイントを合算することで、一次エネルギー消費量基準の適否を確認することができます。
従前の省エネ法「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」から引き継いだ建築物省エネ法「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」の「建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令」において、告示として「住宅部分の外壁、窓等を通しての熱の損失の防止に関する基準及び一次エネルギー消費量に関する基準」に適合しているか仕様確認する評価方法で、各評価方法の中で容易に対応できますが、モデル住宅法と同様に数値による性能レベルが出来ず適否のみの評価対応となります。
1)外皮仕様
評価対象住宅の外皮の各部位の仕様が、定められた基準に合致しているかを照合して評価する方法で、「躯体の断熱性能」と開口比率(開口部比率を出すには外皮面積計算が必要です。)に応じた「開口部の断熱性能と日射遮蔽性能」が定められています。しかし、一定の高い性能の開口部の場合は、開口部比率を算出しなくても評価することができます。
2)設備仕様
設備の仕様が、定められた基準に合致しているかを照合して評価する方法です。設備機器のうち、「暖房」、「冷房」、「給湯」、「換気」、「照明」の仕様が定められています。計算ルートに比べ選択しが限定されています。
建築物省エネ法の評価方法による特徴と違いは下記表のようになります。
| 標準計算ルート | 簡易計算ルート | 仕様ルート |
外皮面積を計算しない方法 | モデル住宅法 |
作業難易度 | 標準 | やや容易 | 容易 | 容易 |
作業時間の比率 | 5 | 2 | 1.5 | 1 (面積計算をしない場合) |
建物の形状の影響 | 評価する | 評価しない |
建物の方位の影響 | 評価する | 評価しない |
窓の大きさの影響 | 評価する | 評価しない |
設備機器の選択肢 | 限定しない | 限定される |
評価結果 | 外皮性能 | 数値による性能レベル | 適否のみ | 適否のみ |
一次エネルギー消費性能 | 数値による性能レベル | 適否のみ | 適否のみ |
| | | | | |
外皮面積計算 | 必要 | 不要 | 必要 開口部比率に応じた仕様が定められている | 不要 開口部比率に関係なく一定の性能が求められる |
部位で求める値 | 熱貫流率U | 断熱材の熱抵抗R または 熱貫流率U | 断熱材の熱抵抗R または 熱貫流率U |
開口部で求める値 | 熱貫流率Uおよび日射熱取得率η | 熱貫流率Uおよびガラス、付属部材、庇、軒等の仕様 |
外皮性能計算 | 計算プログラムなどで計算する | 簡単な計算式に代入して計算する | 簡易計算シートで計算する | 計算しない |
一次エネルギー消費量計算 | Webプログラムで計算する | 計算しない (設備仕様と照合する) |